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令和7年10月大学院入学宣誓式 学長式辞

学長式辞

 新入生の皆さん、このたびは奈良女子大学大学院人間文化総合科学研究科へのご入学、誠におめでとうございます。心より歓迎申し上げます。また、ご家族並びに関係者の皆様にも、謹んでお祝いを申し上げます。

 私たちの研究科は、人間の営みを軸に、文化?社会?自然環境といった多様な対象を探求し、深く理解するとともに、それらに関わる現代的な課題の克服についても検討する場です。研究の世界では、文学、理学、工学、生活環境学など、さまざまな分野が交差し、新たな知識や視点が生まれます。皆さんがこれから取り組む研究課題は、社会の複雑な問題に対する解決策を見出す重要な一歩ともなることでしょう。ぜひ、大学院での研究に思う存分浸り、心ゆくまで研究の世界を堪能してください。  文部科学省の最新統計によれば、日本で大学に進学する人の割合は男女ともに5?6割ですが、大学院に進学する人は男性で16%、女性ではわずか7%にすぎません。この数字から、皆さんはすでに「少数派」として、大学院という学びの世界に足を踏み入れたことがおわかりいただけるかと思います。とりわけ女性として大学院に進学された皆さんは、既に相当に“選ばれし者”、ということになります。

 では、大学院で研究することにはどのような意味があるのでしょうか。私自身を振り返れば、学部時代は「自分のため」に学んでいたように思います。しかし修士課程に進むと、自分の研究の社会的価値を意識し始め、博士課程では「その研究はどんな役に立つのか」と問われる機会も増えました。そして大学で教員として教育?研究に携わるようになってからは、自分の専門を超えて、広く大学での学び?研究の社会的意義を強く考えるようになりました。

 ここで、大学における教育?研究活動の社会的意義と関連して、東京大学名誉教授の石井洋二郎さんが書かれた『東京大学の式辞 歴代総長の贈る言葉』という示唆に富む著作について紹介したいと思います。この書籍の補章には、東大総長の式辞に加え、来賓の祝辞も掲載されており、その一つに2019年4月の東京大学入学式における上野千鶴子名誉教授の祝辞が取り上げられています。上野さんの祝辞は、当時、マスコミでもかなり取り上げられ、私も覚えていますが、石井さんはこの祝辞が「長いあいだ女性は差別されてきた、そうした土壌をつくってきたのは男性の責任である」という、単純なフェミニズムの言説に回収してしまう論調が目立ったような気がする、と述べていらっしゃいます。そして、「大学で学ぶ価値とは、すでにある知を身につけることではなく、これまで誰も見たことのない知を生み出すための知を身に着けることだ」と語った上野名誉教授の言説を引用し、このメッセージが「幸運にもその機会に恵まれた新入生たちに向けて投げかけられた厳しくも熱いエールであると、私は思います。」と評されています。このメッセージは、まさに、今この場に立つ皆さんへの、私からの思いに他なりません。

 今日から奈良女子大学の一員になられた皆さんは、ある面では、授業料を納めて大学が提供する教育や研究の機会を享受する立場になったとも言えます。しかし一方で、税金などの公的な支援を受けて、その授業料を上回る勉学研究環境を優先的に利用できる立場を獲得したのだ、という見方もできます。後者の立場から考えれば、皆さんは、自分のために勉学?研究するだけではなく、その勉学?研究の成果を少しでも社会に還元する責務をも負うことになったのだということになります。

 新入生の皆さんには、このような自覚を胸に在学期間を過ごし、研究者として、また高度な専門職業人として、社会に貢献できる人材へと成長されることを願っております。これからの皆さんの歩みに大いなる期待を寄せつつ、歓迎の言葉といたします。




 令和7年10月1日
 奈良女子大学長 高田将志